RENACERを始め、様々なバンドで活躍してきたヴォーカリストChristian Bertoncelli。 今やアルゼンチン・メタルを牽引する一人となっている彼の初のソロ・アルバムが今作です。

そんな彼の始まりは、1991年のADVERTENCIAというバンドから始まり、1993年のEXOTERI-Kというバンドを経て、1994年に彼の人生の転機と言える出来事がありました。 それは、アルゼンチンのメタル・ゴッドV8から派生したバンドHORCAS、 そのHORCASのヴォーカリストに抜擢されるという驚くべき出来事でした。 すでに高い人気を誇っていたバンドのフロントマンとなり、伝説のギターリストOsvaldo Civileと過ごした貴重な体験により磨かれ大きく成長した彼は、 そこから自らの道を邁進して行きます。1996年のIMPERIO結成とともに1997年にHORCASを離れ、 アルゼンチンのメタル・シーンに頭角を現していくのでした。強力な歌声と煌びやかなメロディを武器にIMPERIOの人気が広がって行きましたが、 いつしか活動停止となり、2001年にRENACERが結成され、2002年についにIMPERIOは解散となってしまいます。 ちなみにIMPERIOはChristianとともに2007年に再結成し、2010年に3rdを発表しましたが、Christianは脱退。 IMPERIOは新ヴォーカリストを迎え、今も活動をしています（2012年現在）。

RENACERはと言うと、劇的なデビュー作でファンの心を鷲掴み、逆境を乗り越え、今も活動をしています。 すっかりアルゼンチン・メタル界にその地位を確立してしまったChristianは、RENACERを基盤に活動しつつ、様々なバンドの作品で活躍しています。

・・・長くなってしまいましたが（汗）、そんな彼がヴォーカリストとして挑んだ今作は、パワーメタル系が多かった彼にしては珍しいハード・ロック中心の作品となっています。 そんないつもよりテンポを落とした楽曲で、力みのとれた緩やかな歌声や裏声、そして彼の代名詞とも言える熱くたぎるような歌声で、表情豊かに歌い分けることに挑戦しています。 特に、7曲目 "Una tarde de octubre"、8曲目 "Sin mirar atras"、11曲目 "Senor del destino (Poeta del sol)" では、情感溢れる歌声と楽曲に、ただ聴き惚れてしまいます。 また、参加メンバーも新しい顔ぶれと言えますが、作品を聴き終え、この作品の為に人選されたメンバーなんだと実感させられるくらい、力を注いでくれています。 特にこのギターリストの方がこれまた良い味を出していて、楽曲ごとに弾き方を変え、色んなタイプのギターをさり気なく弾きこなし、今までどこに隠れていたの？と思ってしまうほど良い仕事をしています。 しかも、Christianの個性的な歌声に負けないギターが、Christianを際立たせているかのようです。

その上、ChristianとEmiliano(G)の2人が全ての楽曲の作詞・作曲を担当していて、 RATA BLANCA風の楽曲もバラードも、全てが物悲しいメロディに包まれていて、どこか心に触れる楽曲が凄く良いのです。 一曲一曲よく工夫されていて、この作品の本気度が窺えます。 そんな完成度が高い作品となっていますので、是非聴いてみてください。

そして個人的に思っていることですが、Christianの声というのは、メタルを歌うための声と言いたくなるくらい濃密で迫力がある声で、 それ故コントロールするのが難しく、音程が危うくなりやすい声だと個人的に感じています。 しかし、一度彼が歌うだけで、その個性的な歌声が爆発し彼の色で染められていく様は、 あのAdrian Barilari(RATA BLANCAのVo)を彷彿させます。 まだまだ彼には及びませんが、いつか彼の領域まで辿り着いてもらいたいと思っています。 彼のような歌い手の高みを目指して、ソロの方も今後も続けて行ってほしいものです。

最後に、4曲目 "Pequeno Gigante" は2010年に亡くなられたRonnie James Dio氏に捧げられた曲となっています。

ご冥福をお祈りします。